花歌う、君の空。
【湊 said】



「まじで心臓止まるかと思った………」


保健室での用事を済ませ、教室に入るなり、俺は力が抜けたようにへたりと机に突っ伏した。


「それ、笑えねーんだけど」

「ああごめん、単なる比喩だよ」

「べつに謝って欲しい訳じゃねーよ」


そう不機嫌そうに口を尖らせたのは、さっき菜花先輩との会話に夢中になっていた俺に用事を思い出させてくれた親友、龍平だ。

「なんか不機嫌だな、龍」

「お前が急に走り出したからだろ?」

「ごめんて、菜花先輩だって分かったらもう止まらなかったんだ」

「それが気に食わねぇんだよ」


入学式の時。

菜花先輩は覚えていないどころか 気付いてすらいなかっただろうけど、俺らはすれ違った。



その瞬間、俺は当たり前のように思った。
「見つけた」と。



それ以来、俺はずっと菜花先輩のことばかり考えていた。

もう一度会いたい、声をかけたい、と願って先輩を探していたが、校舎が広いのか、とうとう見つからずに入学式から2ヶ月も経ってしまった。

後から分かったことは学年とクラス、名前くらいだった。


だからさっき 先輩と目が合った時は、ほんとに心臓が止まりそうなくらい嬉しかった。

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