神様、私を消さないで
亜弥子が「樋口くん」と、声をかけるとゆっくりとこっちを向く。

樋口大和の顔をそのとき初めて見た気がした。

短めの髪に、鋭い目。

身長は私よりもずっと高そう。

だけど、気になるのはその顔に笑顔のかけらも浮かんでいないことだ。

口をへの字に結んだ顔は、まるで笑ったことがないみたいに感じる。


「こっちで少し話しようよ」


亜弥子の誘いにも、大和は首を横に振る。


「俺はいい」


短く言うと、背を向けて出ていってしまった。

一瞬無言になってしまう私たち。

すぐに雅美が「きゃはは」と笑い声をあげたのでびっくりした。


「樋口くんかっこいいよね。きっと男子ひとりだから照れているんだよ」


「うん」


うなずく私に、「彼女いるのかなぁ」なんて目を輝かせている。
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