汽笛〜見果てぬ夢をもつものに〜
それからも龍二は必死に働いた。
歩合で走ることを条件に馴染みある運送会社に雇ってもらい不眠不休の如く走った。
毎月収入は八十万円〜百万円稼いだが支払は毎月七十万あった。
そんな苦しい生活を送りながらも龍二は家族の気持ちを考え怒涛のように働き気がつけば二年で二千万円は残り僅かとなっていた。

1995年5月

しかしその頃、妻の美子は生活水準を落とせず龍二に内緒で借金を重ねていた。
ある日、龍二が長距離帰りで午前中帰宅すると電話が鳴っていたので出るとサラ金からの督促電話だった。
「廣岡さん、いったい今月の支払はいつなんだ?」
愛想のない声と有無も言わせぬという言い回しで受話器に響いた。
「何のことだ?」
「あんたの女房があんた名義で借金したんだろ、あんたも認識してると言ってたがな」
「知らねーな」
「なら私文書偽造だな、一括返済請求するぞ」
「ちょっと待て、女房はいったいいくら借りてるんだ?」
「うちが百万、他七社から六百万位らしいぜ」
龍二は絶句した。
「何だって!?一時間後に折り返すから少し待ってくれ」
「分かった、だがな逃げるなよ!」
「けっ、逃げるかよ!」

龍二は美子を問い質した。
そして借金の理由を龍二の会社が倒産し生活が苦しく借りた、悪いのは龍二で自分に責任はないと言い放った。
水掛け論となった美子との間には、もはや信頼関係は失われ、その後に美子の浮気も合間って2年後に離婚した。

娘の親権は弁護士とも話し合い裁判も辞さない構えで強気にいったが、龍二の会社倒産や仕事柄なかなか帰宅できないこと、また美子が実家に戻り育児ができる環境にあることなどがネックとなり調停で勝つ可能性が少ないことなどの理由から親権を諦め養育費名目で借金は龍二が被り一人となった。

< 13 / 24 >

この作品をシェア

pagetop