汽笛〜見果てぬ夢をもつものに〜
寛は龍二を抱え上げ車で15分程の救急病院へ運んだ。
予め寛は病院へ電話を入れとおいたため、直ぐさま緊急処置が施され、人工呼吸器と点滴が数本打ち込まれICUへと運ばれた。
寛は、診察中に無二の親友のもう一人、達也を呼んだ。
しばらくすると診察した医師が寛の前に現れた。
「廣岡さんの肉親の方ですか?」
寛は、状況も把握したかったのもあったため「そうだ」と嘘をついた。
「もし、後30分遅れていたら心肺停止になっていたでしょう、ギリギリ間に合った感じです」
医師の言葉に寛はホッと胸を撫で下ろした。
その時、達也も合流し「弟だ」と言い放ち診察室へ入ってきた。
何となく状況を把握した達也も少し安心した気持ちになった。
か、しかし、それもつかの間、その後に続く医師の言葉に絶句する。
「ただ非常に危険な状況です、腎機能が低下し肺炎も併発してます、熱は少し下がりましたが依然41度8分もあり所謂危篤状態です、当病院の最高熱記録でこれから2時間が山です」
あまりに突然の最期通告に寛は天を仰ぎ、達也は涙にむせ返りながら医師に言った。
「先生、どうにか、どうにかして下さい」
「やるだけのことはやりました、後は廣岡さんの生きようとする精神力だけが勝負です、それと…」
医師が何か言おうとしたが口をつぐんだ。
「先生!それと…それと何ですか!?」
医師は二、三回頷きながら自らを言い聞かせるように、
「それと、回復したとしてもあまりの高熱で脳に記憶障害が残り、言語障害などが起こる可能性も否めません」
あまりにも残酷な言葉だったが命だけでも助かればと達也は必死に哀願した。
ベッドに横たわる龍二を見つめながら男泣きをしていた。

龍二との付き合いは高校生の時から始まり、最初の会社を共に興し、音楽仲間として良いことも悪いことも共にし、20年近く連れ沿っている相棒だった。
また、二人が夜な夜な歌舞伎町や渋谷で遊んでいた頃、達也が以前から一物あった新宿のヤクザと揉めてしまい事務所に連れて行かれたことがあった。
二日間監禁されてしまい、危険な状況に追い込まれたとき、探し回り一人で事務所に乗り込み助けてくれたのは外ならぬ龍二だった。
正に兄弟であり、親友であり、命の恩人でもあった。
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