汽笛〜見果てぬ夢をもつものに〜
2005年12月

冬の到来、師走12月を控え業界全体が繁忙期であり正に寒さなど吹き飛ばすかのように臨時列車数が増え、汽笛の数が上昇するほど売上が上昇する。

TKエンタープライゼスもどうにか切り盛りしながら年末を迎えていた。

そんな11月の月末、営業廻りをする龍二の携帯に一本の電話が雪村から入った。
「常務、取引先の株式会社喜与商事から入金予定の振込がありません」
「何?あそこはいくらだ?」
「250万です…」
雪村の声は震えていた。
「電話したのか?」
「しましたが、担当者の専務は外出中だそうです」
「専務の山橋の携帯に俺からも電話入れてみる、確認してすぐ折り返す」
「お願いします」

龍二は山橋に電話を入れた。
「お世話になります、TKの廣岡です」
「あっ、常務どうもどうも」
「専務、本日の入金が確認できないとのことですがどうなっていますか?」
「いや、請求書が来てないので払えないんです、どうなっていますか?それから現実として請求書が来たからと言っても今日の明日では無理です、請求書が来てなかったので来月でよいのかと思い仕入費用に捻出してしまいましたから」
「請求書がいってなかったんですか?とにかく確認して改めてご連絡致します」
龍二は山橋との電話を切り会社の雪村へ電話した。

「雪村、請求書が送られてないらしいがどうなってる?」
「えっ…」
雪村は絶句したまましばらく押し黙っていた。
龍二は更に続けた。
「明日には仕入先の株式会社中部トレーディングに支払が200万あるんだぞ、その入金がなけりゃ払えないだろ!」
「すぐに請求書をFAXして明日朝1番に入れてもらうようにします」
「道理が通らん、とにかくFAXは流しておけ、すぐ社に戻るから社長にも居るよう伝えてくれ」
そう言うと龍二は電話を切った。


会社に戻る道程、色々考えていた。
こりゃ明日の入金は難しいな…
そうなると中部トレーディングに送金が出来ないと言うことか…

実は中部トレーディングへの送金期日は十日前に過ぎていた。
しかし、龍二が粘り中部トレーディングがある静岡まで謝罪に行くことで喜与商事の入金翌日、つまり明日支払するという約束になっていた。

龍二は手を打つべく電話をした。
「ありがとうございます、中部トレーディングです」
「お世話になります、TKの廣岡です、野田社長おられますか?」
「少々お待ち下さい」

何と言うかな…
向こうはブローカー水産会社だから強気に出るだろうな…
「常務どうも、野田です、いや〜冷えますねぇ」
野田の対応は明るかった。
龍二は現状を全て話した。
喜与商事との状況や現在の状況などを。

しかし龍二の話を聞くと野田は当たり前だが豹変した。
「常務いい加減にして下さいよ、前回から十日の猶予を与えたんですよ、後一日ありますから絶対作って明日入金して下さい」
「現実的に入金がないと厳しいと思われます、しかし努力は致します、当日になってからでは申し訳ないので先ずは一報入れさせて頂いたしだいです」
「申し訳ないと考えてるなら明日滞りなくお願いします」
「最善の努力は尽くします、明日朝一番にご連絡致しますので何卒よろしくお願いします」
電話を切った龍二は、マズイな、と感じていた。
ブローカーだから下手すると筋物連れて乗り込んで来るな…
漠然とそう感じていた。

会社に戻ると木内が雪村を怒鳴りつけていた。
「おっ、常務戻ったか!で、入金の方はどうなんだ」
「現状難しいですね、仕入に使い支払能力はないとのことです」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないだろ!俺は知らんぞ!お前達で解決しろ!全くどいつもこいつも不幸かけおって!」
そう木内は怒鳴ると社長室に閉じこもった。

重い空気の中、雪村が口を開いた。
「常務、どうしたらいいですか?私はスタッフさんに請求書送るのを任せていました、確認しなかった私の責任ですが…」
そう言うと龍二の顔色を伺った。
龍二はスタッフに責任転嫁をしていると分かった。
「現状誰の責任とかの問題じゃないだろ?スタッフ云々言う前に何か考えろ!明日無理だと中部が乗り込んで来るぞ!」
「えっ?乗り込んで来るんですか?」
「相手はブローカーだ、それくらいやりかねん」
「来たら警察に連絡しますから」
「アホか!とにかく何か考えろ」
そう龍二は言うと会社を出た。

龍二は株式会社喜与商事の専務と会い明日の入金を少しでもと頭を下げた。
しかし、無理の一点張りでらちがあかない状況だった。

そして翌朝1番に木内から電話があり、所用で出掛けるので今日は出社しない、と連絡が入った。
出社しない理由を龍二は分かっていた。
雪村から昨日、ブローカーが乗り込んで来る恐れがある、と聞いており逃げたのである。

龍二は中部トレーディングの野田に電話を入れ現状報告と謝罪をした。
しかし野田は、専門家を連れて差し押さえに今から行く、と言い張り一方的に電話を切った。

念のため龍二は木内に電話を入れ報告したが、お前が責任取れ、と一言言い電話を切った。
その様子を見ていた雪村が、とにかく来たら警察に、と言ったがこちら側の落ち度であり警察が動くと海幸やに悪い噂が立つと考え龍二は、俺が対応するから大丈夫だ、と言い放った。

そして16時過ぎに中部トレーディング社長の野田、中部トレーディング部長の中沢、後に判明するが谷口組清龍会若頭補佐の高石が乗り込んで来た。
予め最寄駅近くのドトールで待ち合わせと決めていたので、そこに着いたと連絡が入った。

よーし、来たか…
どーれ、一丁対決するかな…
龍二はそう考え会社から出た。
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