イジワル男子の甘い声
*
「…パパ」
「座りなさい」
家に帰ると、いつもいないはずのパパがダイニングテーブルの椅子に座っていて、
腕組みをして私にそう言った。
「昨日どうして休んだんだ。説明してくれ」
「えっと…」
「双葉はもっとしっかりしてると思ってた。言わなくても自分の管理はしっかりできる大人だと思ってた」
「っ、」
制服のスカートをギュッと握り締める。
何も言えないのは、言い返してパパに本当に嫌われるのが怖いから。
「…ごめんなさい」
変わったのはパパの方なのに。
まるで私のことをおかしいものを見るみたいな目で見る。
「はぁ…母親がいれば違ったのかな」
っ?!
何それ。
「仕事の関係で最近よくしてくれる方がいてな」
はぁ?
「今度、双葉にも紹介──────」
「ごめん、私、夕飯の買い物行かなくちゃ」
パパのセリフの続きなんか聞きたくなかった。夕飯の材料なんて、一人で食べてるんだからまだまだ有り余ってるのに。
「双葉、話はまだ終わって────」
私はそう言って、逃げるようにマンションを後にした。