イジワル男子の甘い声
「うっ、」
ポタポタと流れ落ちる涙を制服の袖で拭きながら歩く。
行く場所なんてどこにもない。
家が唯一、一番好きな場所だったのに。
あそこで息をするのもやっとだ。
パパはずっと、仕事で忙しいんだと思った。
たしかに忙しかったかもしれない。
だけど…。
理由はもういっこあったんだ。
そりゃおかしいよね。会社で泊まる回数だってよく考えれば異常だった。
なんで不審に思わなかったんだろう。
パパにはもう、別の大切な人がいるんだ。
だから私のことなんてどうでもよくて。
本当にひとりぼっちじゃんか。
ミカたちにはこんなこと絶対話したくない。
弱いところを見せたくない。
パパに対してだってそうだった。
心配をかけない手のかからない娘でいたかった。
それでもずっと頑張れていたのは、
彼の声があったから─────。