イジワル男子の甘い声


「チッ。ほら降ってきた。行くぞ」


「えっ、」


柏場は空を見上げてから、私の手首を掴んだ。


「ちょっ、柏場くん!私帰らないから!」


「黙れ」



振り払おうにもやっぱり男の子なだけあって力が強い。


スタスタと歩くスピードだっておかしいし。
自分の足の長さわかってんの?



少なかった雨粒はどんどん数を増していき、


「間に合った」


マンションのエントランスについたときに、それこそバケツをひっくり返したような大雨が視界に広がった。


「だから早めに帰ってきたのに。テメェが道塞いでたから少し濡れた」


「はいはい。濡れたっていっても、ほんの少しじゃないですかぁ」


「ブス」


「……っ、」


言われなくてもわかってるし。


柏場が振り返って慣れた手つきで部屋の鍵を操作盤に差した。


柏場がここまで連れてきてくれたからずぶ濡れにならずに済んだけど。


私は今、パパのいる家に帰れないのだ。


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