イジワル男子の甘い声
柏場が階段を上ったのを確認して、渋々私もエレベーターに乗り込む。
あぁ、帰りたくない。
柏場、今回のは確実にありがた迷惑です。
散々お世話になっててこんなこと言うのはアレですが、ありがた迷惑です。
私のうちのある階で音が鳴り、ウィーンとドアが開く。
家出もろくにできないなんてカッコ悪い。
ゆっくりと自分の家のドアの前に立つ。
はぁ。
忘れものを取りにきた、なんて間抜けだし。
かといって買い物に行くといって何も持ってないのもおかしいし。
パパだけじゃなくて私だってパパに怒ってるのに。
─────ガタッ
っ?!
嘘、このタイミング?!
今、ドアの向こうでパパは靴を履いているんだと思う。
そんな音がした。
どうしよう。
どっか、隠れられるところ…。
そう思って、顔をキョロキョロと動かした瞬間────。
「ほんっと面倒くさい」
そんな低い声が聞こえたのと同時に、私の腕はまた何かに引っ張られて、
吸い込まれるように、
「へ、ちょっ、」
隣のドアの中へと入っていった。