イジワル男子の甘い声
「お前は、違うだろ。お前は全然違う」
昔、何も言わず消えていった、父親を傷つけて裏切った俺の母親たちとは…何もかも違う。
それを教えてくれたのは、まぎれもない双葉本人なのに。
こんなこと思わせて、俺の方が彼女を傷つけるなんてしたくない。
「ごめんっ、ごめんなさい、優。本当は優と離れたくないし、ずっと一緒にいたい。でも…」
「別に死ぬわけじゃねんだから。3時間?会おうと思えば毎日会えるわ」
恋人と家族、選べないこともわかってるつもりだ。俺だって、瑞紀が突然、一緒に住みたいからこっちに来てなんて泣きながら懇願してきたら、それこそ一生分悩むだろう。
思ったよりも、自分が冷静だった。
双葉の気持ちが、俺から離れたわけじゃない。目の前の彼女を見て、安心した。
『離れたくない、一緒にいたい』
それを言われるだけで、どんなに自分の存在に自信を持てるようになるか。