好きって言って、その唇で。
一話 その男、パーフェクト。
私の職場はデザイン系の小さな下請け会社だ。
大手企業と名高い色々な会社から発注を受けてクライアントの望むものを提供する会社。そんな会社が、フランスに本社を持つというファッション系の会社に買収されたらしい。
話を聞いた時はいよいよ職を失ってしまうのかと肩を落とした。
しかし、デザイナーという技術職。総合職とは違いそうそう転職には困らないだろうと色々と大人らしく考えを巡らせていた――職を失った方が、まだマシだった。
「ほらほら!堀中さんも見なよ!超イケメンなんだから!」
「あー、はい」
目の前に広がる蟻の群れのような女子の大群にドン引きながら先輩社員の指さす方に視線をやる。
女子の群れの中心、物理的に頭一つ二つ分抜けているその男を見て私は吐き気に似た感覚を覚えた。
「はー、さすがハーフ。他の男とは格が違うわー」
すらりとモデルのように伸びた長い手足。
すっと通った鼻筋に陶器のような白い肌。血色の良い唇は微笑みと共に薄く開かれ妙な色気を放つ。
彼が話すたびに揺れる金髪が、窓から射す朝日に反射して眩しい。
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