好きって言って、その唇で。
「ならどうして恋人になってくれない?」
苦手だって言ってるでしょうが。
言いかけた言葉は飲み込んだ。片桐さんがあまりに弱々しく笑うから。
「君の恋人として不足している部分があるのなら教えて欲しい。必ず君に相応しい男になってみせるから」
苦しそうに紡がれた言葉に、なぜか胸の奥がチクリと痛んだ。
これじゃあ私がいじめてるみたいじゃない。やめてよ。
「私が……から、」
「え?」
勇気を出して、精一杯相手を傷付けない言葉を選ぶ。いや――正直、これが私の本音であり世の中の真理であろう。
「私が、あなたに相応しくないからです……!」
呆然と立ち尽くす男にこれ以上かける言葉もなくて、女子トイレに逃げ込んだ。さすがにここまでは追いかけて来られないだろう。
自分で言っておいて悲しくなって、個室に入って内側の扉に頭を擦りつけるようにもたれかかった。
何だって私なんだ。このオフィスには――世の中には、私よりずっとずっと綺麗で可愛くて、性格も良い女性がたくさんいるのに。
色々と考えを巡らせていると、コツコツとヒールが床を鳴らす音が聞こえてきた。それも複数。