好きって言って、その唇で。
「堀中 奈々子さん?」
「はい……?」
聞き覚えのない声に思わず素っ頓狂な声で返事をした。その瞬間、上から滝のように降り注いでくる水。
「調子に乗りすぎじゃない?」
「そっけなくして片桐さんの気を引くなんて最低な女」
びしょ濡れになった洋服を呆然と見下ろす。
こんなの少し昔のベタな少女漫画でしか見たことない。少女漫画的な展開に縁がありすぎではないか。勘弁して欲しい。
頭の先からつま先まで濡らされたことと、好き勝手聞こえてくる悪口に腹が立ってきて、勢いよく個室の扉を開け放った。
「ちょっと、何すんのよ!」
怒りに任せて扉を開けた目の前に立っていた女の肩を掴むときゃっ、と可愛らしい悲鳴を上げられた。
私をこんなにしたメス共の顔を一目拝んでやろうと睨みつけると見知らぬ顔ばかり。恐らく片桐 伶斗にご執心なハーレムの一味だろう。
「あれ……?」
その後ろに隠れるようにして立つ女に、私は眉をひそめた。