好きって言って、その唇で。
目が覚めて一番最初に目にしたのは真っ白な天井ときらびやかなシャンデリアだった。
一瞬病院かと思ったけれど、病院にシャンデリアなんかあるはずもない。状況を把握しようと重たい身体を起こすと、すぐそばから人の動く気配がしてビクリと肩を震わせた。
「奈々子、目が覚めたんだね」
椅子に座って読書をしていたらしい片桐さん。私が身体を起こすと読みかけのページに付属のヒモ状の栞を挟んで、分厚い本を閉じた。
「ここは……?」
まるで王族の城の一室のようなきらびやかな装飾の家具たち。キングサイズのふかふかのベッドの周りは金が散りばめられた薄いレースのカーテンがかけられている。まるで異世界だ。
「僕の家だよ。あの後奈々子が気を失ってしまったからここに運んだ」
「あの、怪我は……?」
私がそう言うと、片桐さんは指先で自分の前髪を払い額を見せた。そこには小さな赤い線が。
「ほら、大したことないだろう?」
本当に小さな切り傷で済んだらしい。ほっと胸を撫で下ろすと、手に温かなものが触れる。
「奈々子は頑張り屋さんだ。こんなになるまで熱心に仕事をしようとするなんて」
片桐さんに手を握られている。私の身体が熱を持っているせいか、やけに冷たく感じた。
「服は濡れていたから着替えさせてもらったよ。ごめんね」
見ていないから、と少し頬を赤く染めてそう言われて私は自分の格好を見る。男性ものの寝間着だった。