好きって言って、その唇で。
「ところで、水遊びでもしたのかな?」
羞恥心が襲ってくるよりも先にそう言われて、思わず目を見開いた。
全てを見透かしたようなアクアブルーの瞳が私の心の奥を覗き込むようにして見つめてくる。
「えっ、と……」
「奈々子」
本当のことを話せばあなたのせいですと責めているように受け取られてしまうのではないかと思って、一瞬ためらう。
けれど、片桐さんはわかっていると言わんばかりに私の名前を呼んで手を握る力を強めた。
「……か、片桐さんのファンの子達に、調子に乗ってるって水かけられて」
そこまで言って、片桐さんがベッドに手をついて乗り上げてきた。
高級なベッドは軋まないと聞いたことはあるけど、本当にふわりと体重で少し沈んでいくだけで全く軋んだ音を立てない。
そちらに気を取られていると、いつの間にか片桐さんの腕の中にいた。
「恋人になれば、堂々と僕が守ってあげられるのに」
ほのかに香る花のような柔軟剤の香りと、密着した部分から彼の速い鼓動が伝わってくる。
「それは……できません」
震える声でそう言うと、一瞬空気の流れが止まった。少しして衣擦れの音と一緒に私の身体から温もりが離れていく。
片桐さんは悲しい顔をして笑った。