好きって言って、その唇で。
四話 好きって言って、その唇で。
風邪を治すために有給を使って1日休み、いつも通りに出社する。高熱が出ただけで寝たらすっかり治った。単純な身体だ。
清々しい気持ちでいつものように出社して、片桐さんの用意した花に今日はどんなリアクションをしようかと考えてデスクを見下ろして、私は首を傾げた。
「……あれ?」
デスクの上にはパソコンと周辺機器、それからイラストを作成する時に使うペンタブレットと資料諸々が置いてあるだけ。何の変哲もない。
違和感と言えば、そこに花がないこと。本来ならばそれがあるべき姿なのだから、違和感と言うと少し違う気もするけれど。
そしていつもであればここで片桐 伶斗が嫌味な程に整った顔を綻ばせて挨拶をしてくるはず。
「あれ……?」
来ない。
既に着席して作業を始めている社員の、キーボードを打ち込む音だけが静かに響く。
お前の愛は三日坊主かよと内心ツッコミを入れて、釈然としない気持ちで私も席に着いた。