好きって言って、その唇で。
「やっと……僕の気持ちに応えてくれた」
「……え?」
思ってもいなかった言葉に弾かれるようにして顔を上げて、目を点にした。
キラキラと宝石のように輝く瞳を大きくして頬を染めている片桐さんを見て私はぱちくりと瞬きをした。
何だって?
「タケルに教えてもらったんだ。日本では押してダメなら引いてみろ戦法というものがあるんだろう?」
「は?」
タケルって誰。たぶんこの会社の人か。知らないけど何でそんなことをこの人に教えた。
「奈々子はつんでれ?だから、少し冷たくすることも良い刺激になるんじゃないかってね」
「ツンデレ……」
彼に余計なことを教えた顔も知らぬタケルさんを頭の中でボコボコにした。なんてことをしてくれたんだと。
「女性を……ましてや愛しい奈々子を避けるのは息が苦しかったよ」
アメリカのコメディ番組でしか見たことがない大げさな仕草で肩をすくめる片桐さんに、私は口元を引き攣らせた。
「は、え?はい?あの、えっと……?」
震える足でゆっくりと後退すると、同じようにジリジリと片桐さんにゆっくり距離を詰められる。
「や、やっぱりさっきの取り消しで」
「それはできないよ」
両手の手首を掴まれて、思い出したように抵抗する。