好きって言って、その唇で。
「奈々子、愛してるよ!」
そう言ってガバッと効果音がつきそうな勢いで私を抱きしめた片桐さん。まるで飼い主にじゃれつく忠犬だ。
「あー、うるさいうるさい!」
好きだ愛してるとキャンキャン吠える躾のなっていない駄犬――もとい、片桐 伶斗を私の持てる最大限の力で引き剥がすと少しだけ残念そうな顔をされたけど、すぐに笑顔が戻った。
「僕としてはツンも良いけどそろそろデレて欲しいんだけどな」
「私としては今すぐにその低俗な日本語を忘れて欲しいんですけどね」
誤解を生まないように、ツンデレ自体が悪いこととは言っていない。
ただ、この人がそういった言葉を使うと違和感でムズムズする。
「一応確認しておきたいんだけど、奈々子は僕が好きだよね?」
「……ほんと、よくそんな恥ずかしいことばっかり言えますね」
自信たっぷりに自分を指さして言い放った男を呆れた顔で睨みつける。
「……刺激が強すぎるんですよ、あなたは」
「刺激?」
恐らく全ては計算ではなく素で行っているのであろう男は心の底から何を言っているのかわからないと言ったふうに首をかしげた。
次の言葉を紡ぐのを数秒ためらって、私は重い口を開いた。