好きって言って、その唇で。


「……私、男の人と付き合ったことがなくて」

「うん」


まるで小さい子供の話を聞くように、片桐さんは優しく目を細めた。


「こんなふうに、積極的に求められると……困る」


そう言って瞬きをした次の瞬間、片桐さんはほんのりと頬を紅潮させて私の手に自分の手を重ねた。


「うん。わかった」


そう言って、片桐さんはあやすように私の手をぎゅっと握りしめた。


「キスから始めようか」

「話聞いてました?」


珍しく真面目な雰囲気だったのにやはり片桐さんは片桐さん。ツッコミ代わりに思わず握られた手を払い除けてしまった。


「ショック療法が一番手っ取り早いって聞いたよ?」

「そうじゃなくて」


どこからそんな情報を得てくる。また例のタケルさんかな。


「え?それ以上のことは……ちょっと、奈々子にはまだ早いんじゃないかな?」


ふざけている様子もからかっている様子もなく困ったように笑う片桐さんを見て頭が痛くなる。


「やっぱり、あなたとは恋人になれません!」




番外編「好きなんて、言えない。」 fin.
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