好きって言って、その唇で。
「初めまして、君が堀中 奈々子さん?」
新しい玩具を見つけたような満面の笑みを浮かべて私の手を握る男の顔を二度見、三度見する。
「……ひ、人違いじゃないですか?」
何度見てもその美しい顔の均衡が崩れることはない。間違いない。間違えるはずがない。
社内で関わりたくない男、私の中でぶっちぎりのナンバーワンに輝く片桐 伶斗が私の手を握って熱い視線を送っている。何かの間違いであって欲しい。
「まさか。僕が女性の名前を間違えるはずがないよ」
さらりとそんなことを言ってのける優男に背筋がぞわぞわする。
別に隠すことではないけれど、私――堀中 奈々子は24歳にして恋をしたことがない。
こんなふうに男の人に近づかれたこともないし、少女漫画のヒロインのような可愛らしい反応もできない。
どうしたものかと口を一の字にして考え込んでいると、片桐さんの顔が更に近付いてきた。
「君の仕事ぶりはよく聞いているよ。とても速くて要望通りのデザインをしてくれる優秀な社員だとクライアントからも評判でね」
「はあ……ありがとうございます」
毛穴もくすみもない真っ白な肌を目の前にしてちょっと私は引き気味になる。もう少し距離を詰められたら息が掛かりそうなほどの近さなのだ。