好きって言って、その唇で。
昨日は残業もそこそこに切り上げて帰宅。
翌日は午前休でたっぷり寝たあとの清々しい気分で出社した。
このままのスケジュールで行けば今日は定時で帰れるはず――弾む心を一気に打ち砕いてきたのは、デスクいっぱいに飾られた真っ赤な薔薇だった。
「……ナニコレ」
肩に下げていたバックの紐がずりずりと力なく落ちていく。
デスク、あるいはオフィスを間違えたのかと思って周囲を確認する。デザイナー仲間の女性社員が私と目が合った瞬間、ビクリと肩を震わせて目を逸らした。
「やあ、おはよう奈々子」
肩を掴まれて引き寄せられる感覚に思わずは?と声を上げそうになるのを堪えて私は顔を上げた。
「おはようございます、片桐支社長」
「伶斗で構わないよ」
「では私のことも堀中社員とお呼びください」
私の肩を抱いて耳元で囁いてくるという朝からふざけた態度の男に向かって嫌味を吐き捨てる。
そんな言葉も彼特有のフィルターを通してしまえばすっかりろ過されてしまうらしく、嬉しそうに顔を綻ばせた。