好きって言って、その唇で。
「どう?この薔薇。100本あるはずだよ」
「いや、多すぎですから。困りますから。嫌がらせでしかないですから」
受け取りたくもないし、かと言って本人を目の前に捨てるのも気が引ける。
もういっそ社内で配り歩こうかと考えたがそれはそれで彼に失礼だろうか。
いやいや、この場面において彼に対する礼儀を気にする義理など私にはない。
「何の冗談ですか……?からかうのはやめてください」
薔薇の花束を引っ掴んで、男に突き返す。
なかなか受け取らないので無理矢理手を掴んで握らせると頬を赤らめて情熱的な視線を送られた。何でだ。
「冗談じゃないよ。僕は奈々子に本気で恋をしたんだ」
「は?」
言わんとしていた一文字の言葉がついに口をついて出た。
だって。そんな。嘘でしょう。
色々な言葉が脳内を飛び交ってぶつかり合う。
「僕の恋人になって欲しい」
突き返したはずの薔薇の花束はいつの間にか再び私の手に握られていた。
ざわつくオフィスを背景に、私はわなわなと身体を震わせて叫んだ。
「――すみません!お断りします!」
有り得ない。恋愛シミュレーションゲームであれば、完全に冷たい態度を取ることで好感度が下がるはずなのに。
教えて欲しい――私は一体どこで選択肢を間違えたのというのか。