好きって言って、その唇で。
二話 君の心に、一輪。
昨日までのことは全て夢だったのかもしれない。
フランス人とのハーフでフランス語はもちろん日本語も流暢に話すことができ、仕事もスマートにこなす社長から求愛されるなんてこと、少女漫画の世界でしか見たことがない。
それも私のような顔も頭も能力も平々凡々な女がヒロインになるなんて世界中がひっくり返って笑うことだろう。あるいは国際問題にまで発展して私は撃たれるかもしれない。
そうだ、全て喪女の妄想だ。
最近仕事のことばかり考えていたから脳みそが甘いものを欲しがっているんだ。今日は帰りにケーキでも買ってお気に入りの少女漫画でも読もう。
なんて考えながら出社し、自分のデスクの上に恭しく添えられた一輪の薔薇を見て私は5秒ほど見つめてから固く目を閉じて、深呼吸をした。
薄目を開けて見てもやはりそこにあるのには変わらない。
「……いや、一輪ならオッケーってことじゃないから」
とりあえず空いたデスクの上に荷物を置いて座る。やたらと存在感のある薔薇を指先でつまみ上げた瞬間、後ろから声をかけられた。