好きって言って、その唇で。
「おはよう奈々子」
「あー、幻聴まで聞こえてきた……」
相当疲れているんだなぁ、とデスクに肘をついて頭を抱える。
このまま聞こえないふりをしようと思っていたら、肩を掴まれて半ば強引に振り向かされた。
「多すぎると困るって言っていたから一輪にしたよ。確かに持ち運びや保管に困るよね。これから毎日、一輪花を贈ろう」
「いや、いいです。気持ちだけで結構です」
これならいいだろうと言わんばかりに微笑む片桐さんに若干の苛立ちを覚えて睨みつける。
私の意思は全て無視。フランス人ってみんなこうなの?
露骨に不満をあらわにする私を見て片桐さんは困ったように眉をひそめて、口元に手を当てて考え込むような仕草をした。
数秒間を開けて、片桐さんが私の顔を覗き込んでくる。
「じゃあ何が欲しい?アクセサリー?バッグ?新作のパンプス?言ってごらん」
「何もいりません」
ぴしゃりと言い放って、肩に置かれた手を払いのける。
この男は私をなんだと思っているんだろう。他の女はこの色男のプレゼントで大喜びしたのかもしれないが、私はそうじゃない。
いくらかっこいい人だと言っても、好きでもない人から物を貰っても困るだけ。