【番外編】狼社長の溺愛から逃げられません!
 

「なに言ってんだ」
内田の戯言を聞き流してため息をついた。
まぁ、放っておけないタイプは嫌いじゃないけど、わざわざ自分の会社の社員に手を出すつもりなんてない。

……そう思っていたはずなのに。

それからなんとなく、有川の姿が目に付くようになった。
真面目に仕事をする姿。無邪気に笑う表情。些細なことで驚いて真っ赤になる顔。
いつも明るく笑顔で、ひたむきに仕事に取り組む様子は見ていて気持ちがよかった。


それから二年がたったころ。
そんな有川が、廊下にひとりで立ち尽くしていた。

まるで迷子になった子供のように途方にくれた様子で、じっと足元を見ている。
その姿があまりにも頼りなくて、思わず足を止めた。

エレベーターが到着しその扉が開いても、有川はしばらくその場から動けずにいた。
誰も乗り込むことなくエレベーターの扉が閉まる。
有川は頭上で光る回数表示の数字を見上げると、こくりと小さく息をのんで、エレベーターに背を向け階段に向かった。
普段あまり使われることのない階段で上のフロアへと上がっていく。


ここの上にあるのは、社内試写室。今日はなんにも使われていないはずだが。
そう思いながら首をかしげた。
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