【番外編】狼社長の溺愛から逃げられません!
仕事を片付け、なんとなく気になって上のフロアへと向かう。
試写室の重い扉を開き中に入ると、大きなスクリーンに砂漠の映像が映し出されていた。
見渡す限り広がる赤茶けた砂漠の地平線に、青い空。
白い衣装をまとった主人公が、ラクダに乗って雄大な砂漠をかけていく。
なんでこんな古い映画が……。
そう思いながらひと気のない客席をながめると、真ん中の席に有川の姿があった。
膝をかかえて、ぼんやりと映画に見入っている横顔。
時折鼻をこすり、涙をこらえる。
その姿は、幼いころ入院していた病院のベッドの上で必死に発作をこらえていた頼りない自分の姿に重なった。
自分もあのころ、ベッドの上で膝をかかえ小さくなって、偶然流れてきた砂漠の映像にぼんやりと見入っていた。
スクリーンに映し出される映像で、有川の涙でぬれた頬がかすかに照らされ、なんだかやけにきれいに見える。
その姿を眺めながら、壁にもたれかかり煙草を取り出した。
こいつがなんで泣いているのかなんて、簡単に想像できる。