【番外編】狼社長の溺愛から逃げられません!
「そんなことは別にいい。それより」
そう言って、うつむいた有川の顎をすくいあげ前を向かせる。
かるく顔を傾けてみつめると、有川の目元がじわじわと赤くなっていった。
黒い瞳に涙が浮かんで潤んでいく。
それでも涙をこぼさないように、必死にこらえているのが分かった。
泣いていたのか、こんなところでひとりで膝を抱えて。
あんなくらだない男と付き合うなんて自業自得だとしか思えないのに、こいつがほかの男のことで泣きそうになっているのが、なんだかおもしろくない。
「どうした。具合でも悪いのか?」
そう聞くと、有川は驚いたように目を見開いた。
「いえ……、なんでもないです」
「目が赤い。泣いてたのか?」
「べつに……」
誤魔化すように目をそらす。
その姿に、心の中にじわじわと庇護欲と支配欲がわきあがる。
こいつを泣かせる原因から守って慰めてやりたいと思うのと同時に、自分の腕の中に閉じ込めてもっと泣かせてみたいとも思う。
『心が揺さぶられる』って、こういうことをいうのか。