夢乃くんにご注意ください
「ねえ、なんで教科書見てるの?」
その日の昼休み。私たちはいつものように音楽室にいた。とりあえず夢乃くんに作ってきたお弁当を渡して、私は古典の教科書とにらめっこ中。
「煩悩を捨てるために勉強に集中したいので話しかけないでください」
そう、私には乙ゲー以外にも勉強という武器がある。もうすぐテストだし、夢乃くんばかりに気を取られてる場合じゃないのだ。
「えい」
と、その時。夢乃くんが私の眼鏡を奪い取った。
「な、なにするんですか……!」
「勉強できないようにしてやろうと思って」
「……っ」
きっと憎らしい顔をしてるに違いない。でも眼鏡をしていない私は夢乃くんがモヤモヤとした塊にしか見えない。
「……返してください。お願いします」
ここでムキになれば私の負けだ。
「じゃあ、俺のこと見てよ」
「う……」
「隣にいるのに違うとこ見てんのイヤだ」
夢乃くんはそう言って私に優しく眼鏡をかけ直す。憎たらしいというよりは少し拗ねたような顔をしていて、それはちょっと反則じゃないかな。
「早く一緒にお弁当食べようよ」
結局、私は逆らうことができずに仲良く昼休みを過ごしてしまった。