夢乃くんにご注意ください
「桐人ー!」
噂をすれば彩芽が嬉しそうに俺のところに駆け寄ってきた。
「走ってきたから手が冷えちゃった」
へへ、と笑って俺の手を握る。
一方的に握られた手は形が歪で、たしかに彩芽の手は冷たい。
……同情、同情ね。
握り返すと彩芽はまた嬉しそうにして身体をひっつける。
俺は最低なヤツかもしれない。
突き放せるし追い払えるし、きっとひどいことも言えてしまう。でも可哀想って気持ちだけで受け入れている自分。
音弥よりよっぽど俺のほうが気持ち悪いや。
でもいつか……。
いつか俺にも追い払いたくない、突き放したくない、優しくしたいって思う気持ちが芽生えたりするのかな。
それでちょっと色んな顔が見たくなっていじわるしたり、困らせたりして……。
いや、今はこんなことを考えても仕方ない。
「夢乃、腹へったからラーメン行こうぜ」
「え!ラーメン私も行きたい!音弥おごって」
「なんで俺に頼むわけ?」
でも、もしそんな女の子に出逢えたら、
俺はたぶん、変われる気がする。
自分のことも好きになれる気がするんだ。
*4TEEN END*