不器用王子の甘い誘惑
1.王子様とお姫様?
 むかしむかし。
 美しくて心優しい娘がいました。

 母親を早くに亡くした娘は継母に育てられ虐げられていました。

 つらくても日々健気に生きていた娘は王子様に見初められて結婚し幸せに暮らしました。

 めでたしめでたし。


 そんなおとぎ話から抜け出て来たような王子様に今……絶賛口説かれ中です!

「どんな女性に言い寄られても君しか目に入らないよ。
 いつでも俺の心をつかんで離さないのは君なんだ。」

 ………練習台ですけどね。



 小さい頃、おとぎ話が大好きだった。

 絵本の中の娘はつらくても頑張っていれば必ず幸せになれるから。
 美しくて心優しい娘は必ず王子様が迎えにくる。

 だからきっと私にもって思ってた。


 でももう25歳。

 そろそろこの夢見がちな性格もなんとかしないと25歳からアラサーなんてどうかしてると思う。

「おーい。またお花畑の向こう側にトリップしてるわけ?」

 大和田瑞稀。
 私と同じく25……悔しい!
 まだ24歳だ。

 小学校の頃からの同級生。
 173センチでスラッとした美形。
 一緒にいると注目を浴びる。

 整った顔立ちで耳にかかった短い髪を邪魔くさそうに払えば、女の子達のため息が聞こえるのも珍しくなくて……。

 性格も男前でとってもいい子だ。
 性別は残念ながら女だけど。

 小・中の頃は男よりも男前で女の子によくラブレターもらったり、告白されたりしていた。

 高校からは別々になっちゃったけど、今もたまに会ってお茶するくらい仲はいい。
 ぼんやりした私にサバサバした瑞稀は馬が合うみたいだ。

「だって、王子様に夢のようなことを言われたんだもん。」

「夢にうなされるの間違いだろ。」

 私はセミロングの髪を払ったところで女の子のため息も、男の子の熱烈な視線も受けない。

 天野紗良。ごくごく普通。
 背も156センチで万年ダイエットしているようなしていないようなスタイル抜群とは程遠い。

 ただ指が細くて綺麗だと昔々のその昔に言われたのをしつこく覚えていてネイルケアは欠かさないくらいで。

「だいたいさー。
 狙ってる人の練習台ってどうなの?
 本命になろうって意気込みくらいはないわけ?」

「そ、そんな!狙うなんて滅相もない!
 絵本の中から本気で出て来ちゃったでしょ!?ってくらい完璧な人なんだよ。
 私みたいな平凡な石ころ……。」

「はいはい。
 石ころも磨けばダイヤってね。」

 磨けば……かぁ。

 小さい頃は本当に信じてた。
 心優しく正しく生きていれば、それこそ白馬に乗った王子様が現れるって。
 そして私を連れ去ってくれるのって。

 現実を知れば、空想のお話なんだって気付いちゃったんだ。






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