不器用王子の甘い誘惑
6.まぶし過ぎる
 意地でも定時に終わらせて、松田さんとの食事は回避するぞ!と思っていたのに、回覧が回って来た。
 至急の赤スタンプが押されたそれは松田さんの歓迎会。

 いつになく早い案内に度肝を抜かれる。
 みんな浮かれ過ぎだよ。

「早めにお願いね〜。」

 早めにの念押しと赤スタンプに横に置くことはしないで内容を確認した。
 日にちは金曜の今日から来週と再来週が一覧になっていて、都合のいい日は○で悪い日はXを書くようになっていた。
 今日の今日って……と思うのにほぼみんな○だ。

 ま、2人で食事に行ってバレておおごとになるよりも、みんなで歓迎会の方がいっか。

 紗良も○をつけて松田さんの席に置いた。
 あとは主役の松田さんの回答で終わりだ。


 そのまま松田さんも今日を○にしたみたいで出欠席を取った今日の今日で歓迎会が開催された。

 近くの居酒屋で広い座敷がある一角を貸し切ってあった。
 部の飲み会はかなりの大人数で、よくお店を取れたなぁと感心する。

「松田くんはどう?」

 隣に座っていた早瀬主任と松田さんの話になった。
 その松田さんはというと遠く離れた場所でたくさんの人に囲まれている。

 この距離が天界と下界の距離。
 いえ。早瀬主任もいい人なんですけどね。

「仕事できそうな人だなぁくらいしか。」

「天野さんでもそう思うよな。
 俺、荷が重いわ。」

 早瀬主任は銀フレームの眼鏡を押し上げて、ため息を吐いた。

 本人はそう言うけれど、早瀬主任は周りがよく見えているし、仕事の割り振りだって的確だ。
 だからこそ松田さんの教育係を任命されたんだろうなってよく分かる。

「早瀬主任なら大丈夫ですよ。
 だいたい仕事できる人なら放っておいても育ちそう。」

「ハハッ。確かにな。
 天野さんのたまに出る斜めからの視点に救われるよ。」

 褒められてるのかな。
 斜めより真っ直ぐに見た方が絶対にいいんだろうけど。

 真っ直ぐ見過ぎて失敗した私は真っ直ぐ見ることが苦手になっていた。
 真っ直ぐ見るとまぶし過ぎて目を開けていられないことだってあるから。



 強くないお酒は控えめにしていたつもりがずいぶん飲んだみたいでいい気分になっていた。

 しばらくしてから「同じ課の人こそ交流を深めたい」と素晴らしい意見を口にした松田さんが紗良達のところに来た。

 私なんて部の飲み会は知り合いが居なくて、ついつい課のみんながいるところから離れられないのに、松田さんは本当にすごい。
 色んなところから声が掛かって、その上で同じ課のことも気にかけて。

「天野さん。
 ちょっと飲み過ぎなんじゃない?
 大丈夫かい?」

 松田さんに心配されて、悪い気はしない。
 命は欲しいから、しだれかからないように気をつけなくちゃ。

「大丈夫れす。家は近いのれ。」

「大丈夫じゃなさそうだよ。」

 松田さんはそう言って笑った。

 ほら。まぶし過ぎる。
 真っ直ぐになんて見ることが出来ないよ。

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