不器用王子の甘い誘惑
名もないカフェでよく亘と遊んでたな。
懐かしいな。
「俺の友達、いい奴でさ。
会わせてみたいな。」
俺は浮かれていたのかもしれない。
だから紗良がおかしいことに気づけなかった。
「松田さんの片思いのお相手の方のことって聞いても大丈夫ですか?」
目の前にいるんだけど。とは言えなくて「いいよ」と答えた。
「明るくて優しくて強くて。
しなやかな美しさって言うのかな。」
みるみる元気がなくなる紗良を見て、やっと異変に気づいても遅かった。
「私とは正反対の人ですね。」
「え?」
正反対………。
俺もその言葉に囚われて、抜け出せなくなってしまった。
その後はお互いに言葉少なに食事をして、紗良のアパートに送り届けた。
家に帰っても紗良の言葉が引っかかって亘に電話をかけた。
「なぁ。俺が話してた『あの子』ってどんなイメージだった?」
「なんだよ。急に。
だから優しくて強くて綺麗で可憐で?
他にもなんか言うか?」
「いや……。
で、さ。そのイメージって俺が再会したっていう子に当てはまるか?」
電話口でハハハハッと笑い声が聞こえて、亘に電話したのは間違いだったとため息が漏れた。
電話を切ろうとした時に驚く名前を言われた。
「お前の話す『あの子』ってさ。
麗華そのものだろ?」
「麗華……?
じゃ再会した子は……もしかして正反対?」
紗良の言った「私とは正反対」の言葉にそんなことないよと言えなかった。
それどころかその一言に囚われてしまった。
「会ったことないから正反対かは分からないけど、だから思い出とはイメージが違うって話しただろ?」
思い出……思い出の紗良って………。
亘の声が遠くに聞こえて「ありがとな」とだけ言って電話を切った。
次の日に会社に行くと紗良がよそよそしくて胸が痛んだ。
それでも俺には何も言えなかった。
俺が会いたかったのは思い出の中の紗良で、目の前の紗良だと胸を張って言えないのだから。
ただ紗良が他の人には愛想よく接しているのを見て、もやもやを募らせるだけだった。
「天野さん。お久しぶりです。」
ベテランそうな女性社員がやってきて、紗良が挨拶をしている。
「天野……さん?」
「あぁ。松田くんは知らないよね。
前にここにいたヌシだよ。」
早瀬主任が俺の疑問に答えてくれた。
ヌシと言われた天野さんは笑っている。
「ヌシとは失礼しちゃう。
噂には聞いてるわ。松田くんはスリーピングカンパニーから来たんでしょ?
ここの経理は紗良ちゃんに任せればバッチリだから紗良ちゃんは丁重に扱いなさい。」
楽しそうに笑ってベテランの方の天野さんは帰って行った。
「紗良……ちゃん?」
「昔はヌシの天野さんがいて新人の天野さんと2人になるから、紗良ちゃんって呼び分けてたんだよ。」
早瀬さんまで紗良ちゃんと自然に呼んだ。
紗良も話に加わって説明してくれる。
「恥ずかしいから天野さんが経理課に異動されたので、私を天野さん呼びに戻してもらったんです。」
「ま、変わらず紗良ちゃんって呼ぶ奴もいるけどな。」
早瀬主任はやっぱり信頼できると思った。
そして『紗良ちゃん』呼びの理由が分かって僅かにホッとした。
この気持ちがなんなのかは分からないまま。
懐かしいな。
「俺の友達、いい奴でさ。
会わせてみたいな。」
俺は浮かれていたのかもしれない。
だから紗良がおかしいことに気づけなかった。
「松田さんの片思いのお相手の方のことって聞いても大丈夫ですか?」
目の前にいるんだけど。とは言えなくて「いいよ」と答えた。
「明るくて優しくて強くて。
しなやかな美しさって言うのかな。」
みるみる元気がなくなる紗良を見て、やっと異変に気づいても遅かった。
「私とは正反対の人ですね。」
「え?」
正反対………。
俺もその言葉に囚われて、抜け出せなくなってしまった。
その後はお互いに言葉少なに食事をして、紗良のアパートに送り届けた。
家に帰っても紗良の言葉が引っかかって亘に電話をかけた。
「なぁ。俺が話してた『あの子』ってどんなイメージだった?」
「なんだよ。急に。
だから優しくて強くて綺麗で可憐で?
他にもなんか言うか?」
「いや……。
で、さ。そのイメージって俺が再会したっていう子に当てはまるか?」
電話口でハハハハッと笑い声が聞こえて、亘に電話したのは間違いだったとため息が漏れた。
電話を切ろうとした時に驚く名前を言われた。
「お前の話す『あの子』ってさ。
麗華そのものだろ?」
「麗華……?
じゃ再会した子は……もしかして正反対?」
紗良の言った「私とは正反対」の言葉にそんなことないよと言えなかった。
それどころかその一言に囚われてしまった。
「会ったことないから正反対かは分からないけど、だから思い出とはイメージが違うって話しただろ?」
思い出……思い出の紗良って………。
亘の声が遠くに聞こえて「ありがとな」とだけ言って電話を切った。
次の日に会社に行くと紗良がよそよそしくて胸が痛んだ。
それでも俺には何も言えなかった。
俺が会いたかったのは思い出の中の紗良で、目の前の紗良だと胸を張って言えないのだから。
ただ紗良が他の人には愛想よく接しているのを見て、もやもやを募らせるだけだった。
「天野さん。お久しぶりです。」
ベテランそうな女性社員がやってきて、紗良が挨拶をしている。
「天野……さん?」
「あぁ。松田くんは知らないよね。
前にここにいたヌシだよ。」
早瀬主任が俺の疑問に答えてくれた。
ヌシと言われた天野さんは笑っている。
「ヌシとは失礼しちゃう。
噂には聞いてるわ。松田くんはスリーピングカンパニーから来たんでしょ?
ここの経理は紗良ちゃんに任せればバッチリだから紗良ちゃんは丁重に扱いなさい。」
楽しそうに笑ってベテランの方の天野さんは帰って行った。
「紗良……ちゃん?」
「昔はヌシの天野さんがいて新人の天野さんと2人になるから、紗良ちゃんって呼び分けてたんだよ。」
早瀬さんまで紗良ちゃんと自然に呼んだ。
紗良も話に加わって説明してくれる。
「恥ずかしいから天野さんが経理課に異動されたので、私を天野さん呼びに戻してもらったんです。」
「ま、変わらず紗良ちゃんって呼ぶ奴もいるけどな。」
早瀬主任はやっぱり信頼できると思った。
そして『紗良ちゃん』呼びの理由が分かって僅かにホッとした。
この気持ちがなんなのかは分からないまま。