不器用王子の甘い誘惑
13.お昼休みの心得
 松田さんはいつも忙しそうで、あまり席にいない。

 会うと昨日の惨めな気持ちを思い出しそうだから今日ばかりは有り難かった。


 お昼休みに同期の田上未智と食堂に行こうとして足を止めた。
 数人の人達が目に止まって、それを目で追う。

 気づいた未智も足を止め、口を開いた。

「ん?あぁ。
 スリーピングから来た松田さん?
 来てからずっとあんな感じだよね。
 よく見かけるよ。」

「そうなんだ。
 私、席が隣なのに知らなかった……。」

 数人の女の人に囲まれて「今日は私の隣で食べてくださいね」「違いますよね?今日は私ですよね?」と取り合いになっているみたいだ。

 真ん中ではハハハッと困った顔で笑う松田さんを見て、本気では困ってないんでしょうね!と嫌味を言ってやりたくなった。

 そんな松田さんとバチッと目が合ってしまって、慌てて目をそらしても遅かった。

「あれ。天野さん。
 お昼はいつも食堂なの?」

 この状況で話しかけないでよ!
 取り巻きの女の人たちの視線が刺さる。

「はい。」

「それなら一緒に……。」

「ねぇ。松田さん。
 早く行かないとA定食なくなっちゃいますよ?」

 これ見よがしに胸を押しつけて腕に絡みついているどこの部署の人か分からない女の人に呼ばれて「え、あ、うん」とハッキリしない返事をしている。
 鼻の下が伸びていますよ!と指摘したい。

 他の人にも腕や服をつかまれて引っ張られて嵐のように食堂へ行ってしまった。

「すごいね……。
 あんな人が隣なんていいねと言おうとしたけど、勘弁願いたいかも。」

「うん。世界が違い過ぎるよね。」

 分かってたこと。
 それなのに、どうして松田さんは「それなら一緒に」なんて言うんだろう。

 昨日のことも含めて、分かっていると思っていたのに見せつけられて惨めで虚しくて、だから期待しちゃダメなんだってば!と心に喝を入れる。

 期待って何をよ!!!

「紗良って相変わらず面白いよね。
 百面相みたいでさ。」

 隣を歩く未智に笑われて、つられて力なく笑った。

「A定食かぁ。美味しいよね。
 私もそうしようかな〜。」

 未智の楽しそうな声に紗良はムキになって宣言した。

「私は絶対B定食!!」



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