不器用王子の甘い誘惑
意見交換会には女性社員を数名選出した。
優秀な社員で昔からの知り合いである麗華に、それに紗良。他、何名か。
紗良に対しては完全な公私混同だけれど、どんな意見を言うのか聞いてみたかった。
「さて。本日は共同開発する予定の新しい寝具についての意見交換です。」
それぞれの社員がより良い製品になるように意見を言う。
議論は白熱……というよりもシープの社員の方が遠慮しているように感じた。
親会社という立場が邪魔をしている気がしてならない。
その中で麗華が意見を述べた。
「布団に高級素材を使うのでしたら、同じように枕も同じものにして、高級感を出した方がいいと思います。」
どんな高級素材にしたらいいかを何件か候補を挙げて、その候補の素材が斬新だった。
おかげでまずまずの手応えだ。
どんな仕事でもそうだが、この仕事はどうしても成功させたかった。
ふと紗良を見てみれば縮こまってまるで参加していなかった。
最初に感じた苛立ちを再び感じて、やっぱり俺は紗良に昔の面影を追っていただけだったのだろうかという思いが心に浮かぶ。
「天野さん。何か意見は?」
突然の指名に周りも静まり返った。
スリーピングカンパニー社長の息子が名指しで指名したという期待感が向けられたのが分かる。
ちょっと可哀想だったかな。
「わ、私は……。
私は材料のことはよく分かりません。」
残念な空気が広がっていく。
それでも俺は紗良を見続けた。
「分からないので見当違いなことを言うかもしれませんが……。
男性と女性で暑い寒いの喧嘩になるのは有名な話でして……。
お布団でそれを解消できたらって……思います。」
「それは寒い方がたくさんの布団をかけて、暑い方は少しだけにすれば済むんじゃないかな?」
珍しく意見をした父……つまりスリーピングカンパニーの社長に紗良の次の返答に注目が集まった。
「そうなんですけど……でも同じお布団で寝たいって……その恋人同士だったり、夫婦もそうだと思うんです。
すみません。解決策が浮かんでいるわけじゃないんです。
ただそういう温度差を解消できて、仲良く寝れるお布団があったらと……。」
ざわざわし始めて、これはまずかったかとこちらが緊張する。
しかし、たどたどしい答えだったが、これは………。
「なるほど貴重な意見ですね。
開発してないのだから、どう作るのかは分からなくて当たり前ですよ。」
父がにっこりと笑ったのを見て安堵する。
良かった。
紗良に意見を求めたのは間違いではなかった。
「同じ布団で温度差ですか。難しい。」
スリーピングカンパニーの開発部長の山田さんが渋い顔をした。
紗良は居た堪れずに青い顔をしている。
山田部長は尚も続けた。
「しかし、難しいほど燃えるというものです。」
豪快に、俺がいた頃と同じ笑い方で笑う山田部長が賛同したらしめたもの。
自分が意見を出した時以上に良かったという思いが強くなる。
「しかし布団だけ……いや、同じ枕なのに誰が使っても快適にすれば、お客様を選ばないし………。」
完結していない意見だったからこそ議論が白熱してきた。
紗良のお陰で有意義な会議になりそうだ。
改めて紗良を見て思う。
やっぱり紗良は『あの子』だ。
俺の思い出の中の『あの子』のままだ。
何か決め手があったわけじゃない。
ただおぼつかない発言をしただけ。
それでも自分なりの意見を持っていて、人とは違う視点がある。
それも心優しい紗良だからこその。
やっぱり俺のお姫様は、芯がしっかりとした真っ直ぐで心優しい昔と変わらない紗良だ。
優秀な社員で昔からの知り合いである麗華に、それに紗良。他、何名か。
紗良に対しては完全な公私混同だけれど、どんな意見を言うのか聞いてみたかった。
「さて。本日は共同開発する予定の新しい寝具についての意見交換です。」
それぞれの社員がより良い製品になるように意見を言う。
議論は白熱……というよりもシープの社員の方が遠慮しているように感じた。
親会社という立場が邪魔をしている気がしてならない。
その中で麗華が意見を述べた。
「布団に高級素材を使うのでしたら、同じように枕も同じものにして、高級感を出した方がいいと思います。」
どんな高級素材にしたらいいかを何件か候補を挙げて、その候補の素材が斬新だった。
おかげでまずまずの手応えだ。
どんな仕事でもそうだが、この仕事はどうしても成功させたかった。
ふと紗良を見てみれば縮こまってまるで参加していなかった。
最初に感じた苛立ちを再び感じて、やっぱり俺は紗良に昔の面影を追っていただけだったのだろうかという思いが心に浮かぶ。
「天野さん。何か意見は?」
突然の指名に周りも静まり返った。
スリーピングカンパニー社長の息子が名指しで指名したという期待感が向けられたのが分かる。
ちょっと可哀想だったかな。
「わ、私は……。
私は材料のことはよく分かりません。」
残念な空気が広がっていく。
それでも俺は紗良を見続けた。
「分からないので見当違いなことを言うかもしれませんが……。
男性と女性で暑い寒いの喧嘩になるのは有名な話でして……。
お布団でそれを解消できたらって……思います。」
「それは寒い方がたくさんの布団をかけて、暑い方は少しだけにすれば済むんじゃないかな?」
珍しく意見をした父……つまりスリーピングカンパニーの社長に紗良の次の返答に注目が集まった。
「そうなんですけど……でも同じお布団で寝たいって……その恋人同士だったり、夫婦もそうだと思うんです。
すみません。解決策が浮かんでいるわけじゃないんです。
ただそういう温度差を解消できて、仲良く寝れるお布団があったらと……。」
ざわざわし始めて、これはまずかったかとこちらが緊張する。
しかし、たどたどしい答えだったが、これは………。
「なるほど貴重な意見ですね。
開発してないのだから、どう作るのかは分からなくて当たり前ですよ。」
父がにっこりと笑ったのを見て安堵する。
良かった。
紗良に意見を求めたのは間違いではなかった。
「同じ布団で温度差ですか。難しい。」
スリーピングカンパニーの開発部長の山田さんが渋い顔をした。
紗良は居た堪れずに青い顔をしている。
山田部長は尚も続けた。
「しかし、難しいほど燃えるというものです。」
豪快に、俺がいた頃と同じ笑い方で笑う山田部長が賛同したらしめたもの。
自分が意見を出した時以上に良かったという思いが強くなる。
「しかし布団だけ……いや、同じ枕なのに誰が使っても快適にすれば、お客様を選ばないし………。」
完結していない意見だったからこそ議論が白熱してきた。
紗良のお陰で有意義な会議になりそうだ。
改めて紗良を見て思う。
やっぱり紗良は『あの子』だ。
俺の思い出の中の『あの子』のままだ。
何か決め手があったわけじゃない。
ただおぼつかない発言をしただけ。
それでも自分なりの意見を持っていて、人とは違う視点がある。
それも心優しい紗良だからこその。
やっぱり俺のお姫様は、芯がしっかりとした真っ直ぐで心優しい昔と変わらない紗良だ。