不器用王子の甘い誘惑
王子様なんて………いない………か。
散々連れ回してしまった紗良に「着いたら起こすから寝てていいよ」と伝えて車を走らせる。
病み上がりだからすぐに帰すつもりだったのに……。
泣きはらした紗良の顔を見ると運転が疎かになりそうで、運転に集中した。
無機質な壁が続く高速道路から見慣れた街並みへと変わる。
高速から一般道に入ると信号で停まった。
隣に視線を移すとシートにもたれて眠っていた。
その姿に僅かな胸の痛みを感じて、目を閉じると、また信号を確認する。
赤から青に変わるのをただただ待ち続けた。
「大丈夫?部屋まで送ろうか?」
「大丈夫です。おやすみなさい。」
「あぁ。おやすみ。」
紗良は律儀に車が見えなくなるまで見ているタイプだ。
だから気持ちが漏れないように静かに伝えた。
「ちゃんと部屋まで帰れたか、今日は俺が見送るから。
寒いし早く部屋に行きな。」
このまま離れたくないという気持ちも、名もないカフェを出る時に言おうと思っていた気持ちも、何もかもを漏らさないように笑顔を向ける。
素直にコクンと頷いた紗良が階段を登っていく。
ドアを開けて入る前に振り向いて、小さく手を振った。
それを確認して車を出した。
車ならすぐの距離だ。
もう一度、どこか遠くに行きたい気分だった。
今回はスピードは出し過ぎずにただただゆっくりと遠くへ。
それでもまだ明日も仕事。
遅くなってしまった帰宅に部屋へ戻りながら携帯を確認して、それから電話をかけた。
亘から「連絡しろよ」とメールが届いていたのだ。
「遅くに悪いな。」
「いや。起きてた。
俺こそ悪かったよ。
でも結果オーライだろ?晴れて恋人か?」
「………今までと変わらないよ。」
「は?あんな勢いで追いかけといてか?」
亘の呆れ声に少し耳から携帯を離して、ため息を吐くように乾いた笑いが漏れた。
「馬鹿みたいだろ?
俺が何か言う前に王子様なんていないって言われて。
俺は………怖くて…拒否されるのが。」
やっと見つけた俺のお姫様。
夢を見れなくなったと言う俺のお姫様。
その紗良に王子様みたいだと言われ、それなのに王子様はいないと言う。
その上、俺の恋を応援すると言われたら、何も言えなかった。
ただ練習はして欲しいと言うだけしか。
「爽助がねぇ。
お前さえその気になれば選びたい放題なのによ。
不憫な奴。」
「ハハッ。不憫か。………そうかもな。
お前こそ素直になれよ。」
「は?何がだよ。俺はいつだって素直100%で生きてるぜ。」
「フッ。まぁそうかな。」
電話を切って、シャワーを浴びる。
どれだけシャワーを浴びれば汚れと一緒に悲しみが流れてくれるだろうかとそんなことを思いながら。
散々連れ回してしまった紗良に「着いたら起こすから寝てていいよ」と伝えて車を走らせる。
病み上がりだからすぐに帰すつもりだったのに……。
泣きはらした紗良の顔を見ると運転が疎かになりそうで、運転に集中した。
無機質な壁が続く高速道路から見慣れた街並みへと変わる。
高速から一般道に入ると信号で停まった。
隣に視線を移すとシートにもたれて眠っていた。
その姿に僅かな胸の痛みを感じて、目を閉じると、また信号を確認する。
赤から青に変わるのをただただ待ち続けた。
「大丈夫?部屋まで送ろうか?」
「大丈夫です。おやすみなさい。」
「あぁ。おやすみ。」
紗良は律儀に車が見えなくなるまで見ているタイプだ。
だから気持ちが漏れないように静かに伝えた。
「ちゃんと部屋まで帰れたか、今日は俺が見送るから。
寒いし早く部屋に行きな。」
このまま離れたくないという気持ちも、名もないカフェを出る時に言おうと思っていた気持ちも、何もかもを漏らさないように笑顔を向ける。
素直にコクンと頷いた紗良が階段を登っていく。
ドアを開けて入る前に振り向いて、小さく手を振った。
それを確認して車を出した。
車ならすぐの距離だ。
もう一度、どこか遠くに行きたい気分だった。
今回はスピードは出し過ぎずにただただゆっくりと遠くへ。
それでもまだ明日も仕事。
遅くなってしまった帰宅に部屋へ戻りながら携帯を確認して、それから電話をかけた。
亘から「連絡しろよ」とメールが届いていたのだ。
「遅くに悪いな。」
「いや。起きてた。
俺こそ悪かったよ。
でも結果オーライだろ?晴れて恋人か?」
「………今までと変わらないよ。」
「は?あんな勢いで追いかけといてか?」
亘の呆れ声に少し耳から携帯を離して、ため息を吐くように乾いた笑いが漏れた。
「馬鹿みたいだろ?
俺が何か言う前に王子様なんていないって言われて。
俺は………怖くて…拒否されるのが。」
やっと見つけた俺のお姫様。
夢を見れなくなったと言う俺のお姫様。
その紗良に王子様みたいだと言われ、それなのに王子様はいないと言う。
その上、俺の恋を応援すると言われたら、何も言えなかった。
ただ練習はして欲しいと言うだけしか。
「爽助がねぇ。
お前さえその気になれば選びたい放題なのによ。
不憫な奴。」
「ハハッ。不憫か。………そうかもな。
お前こそ素直になれよ。」
「は?何がだよ。俺はいつだって素直100%で生きてるぜ。」
「フッ。まぁそうかな。」
電話を切って、シャワーを浴びる。
どれだけシャワーを浴びれば汚れと一緒に悲しみが流れてくれるだろうかとそんなことを思いながら。