不器用王子の甘い誘惑
26.前を向いてて
 俺の為に可愛くしてきてくれたんでしょ?
 で、すでにやられてるのに、これ以上どうしろと。

「具体的にって………。」

 ブラウンの薄手のチェスターコートはスマートな体型にフィットしていて、同色系の中のシャツと合っている。
 チャコールグレーのパンツも細身で、全体的にスラッと背が高い松田さんをこれてもかってくらいにかっこよく見せていた。

 遠目から見ただけで完全ノックアウトなのに、それを具体的に言えと言われても……ねぇ。
 イケメンは何を着ても似合うよ……って思うけど、きっとそんなこと言えば失礼だ。

 私ほどじゃないにしても緊張するって言ってたんだから、悩んでくれたんだと思う。

「シャツの首元がVなのが……色っぽくて、ちょっと目のやり場に困ります。」

「ちょ、今、そんなこと言う?」

 声を上擦らせ、手で口元を覆った松田さんが意外だった。
 松田さんが言えって言ったんですよ!?なんて文句が出ないくらいに。

 微かに顔が赤い気がして、言われ慣れてると思うのに意外な反応で意地悪したくなる。

「前も思ってましたけど、ジャケットとかコートとかを着たまま運転してる姿がかっこいいなぁって。」

「ちょっと。今の反則でしょ?
 そんなこと言われたら暑くても脱げないよ。
 だいたい何がいいのか……紗良の見るとこ特殊過ぎて全然分からない。」

 暑っつ……と言いながら服をパタパタさせる松田さんにフフッと笑いが漏れる。

「だって。なんでしょうね。
 動きにくそうだなぁと思うのに華麗なハンドルさばきだから?」

「もう褒めるの運転中は禁止。
 窓……開けると排気すごそうだから、エアコン付けるからね?」

「コート脱いでくださいよ〜。」

「………始まりからこれじゃ俺の身がもたないよ。」

 信号待ちで停まっている間に素早くコートを脱いだ松田さんが「ごめん。持ってて」と膝の上に渡した。

 コートは松田さんの匂いがして、なんだか松田さんに抱きしめられているみたいでドキドキする。

 身がもたないのはこっちの台詞だよ。






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