不器用王子の甘い誘惑
「おばあちゃんにお金を借りようとしたって話しましたよね?」
「ん?……うん。」
長い信号に捕まっている時に紗良が話し始めた。
視線の先にはATM。
ATMの壁には『オレオレ詐欺』や『振り込め詐欺』と大きく書かれて注意喚起がなされていた。
「オレオレならまだ……ね?
私なんて紗良だよって孫本人じゃ防ぎようがないよね。」
暗い声。
まだまだ自分を責めている声。
なんて声をかければいのか分からない。
「不審に思った銀行員の方に声をかけられて、そこで発覚したんです。」
想像とは違う結末。
「え?じゃおばあちゃんにはお金を借りなかったってこと?」
「はい。」
「だってあんなに……。」
おばあちゃんに対してすごく申し訳なさそうで、あんなに泣きじゃくるほど……。
「その後におばあちゃんがくれるって。
アパートは契約更新をしない上に家具や家電まで売って馬鹿ですよね。
一文無しだから甘えるしかなかったんです。
………あの人に渡したお金は全部使われてて戻ってこなかったから。」
そうか。だからか。
だからあんなにもおばあちゃんに申し訳なく思ってるんだ。
「もちろん返したい気持ちはあって、でもそんな名目じゃ受け取ってくれないから、何かと理由をつけてお金を送ってるんです。」
お金が必要……おばあちゃんに送るから。
そういう理由もあったようだ。
「おばあちゃん。大切にしなよ。」
「……はい。」
俯く紗良の頭を2、3度、頭を撫でて「ほら。下ばっかり向いてると酔うよ?」とやんわりと指摘した。
紗良には前を向いて笑っていて欲しいかった。
「じゃ本当に香川先輩は紗良を苛めてたわけじゃなかったんだ。」
「ふふっ。そうですよ?
案外優しい方です。
私のお金がいる理由も知ってるのに、それは言いふらさないでいてくれて。」
「そうなんだ……。ごめん。
本当に余計なお世話だったんだね。」
「ううん。余計なお世話ではないですよ。
面倒な仕事の押し付けとか、ちょっと男の人と話しただけでいびりとか普通でしたから。
最低最悪な人ってわけでもないですが、良い人ってわけでも……。」
「フッ。紗良も案外言うんだね。」
「それは……だって。」
「責めてるわけじゃないよ。
俺も心の中で「最低だな。あんた」って罵ってた。」
「松田さんも王子様は王子様でも黒王子?」
「俺は白馬に乗った潔白王子様。」
「潔白?潔癖じゃなくて?」
俺のこと女ったらしって吹き込まれたことを言ってるんだけど、分かるわけないか。
「俺が潔癖だと思う?」
「ううん。標準ですよね?きっと。」
「ほら。また敬語に松田さんになってる。」
「ん?……うん。」
長い信号に捕まっている時に紗良が話し始めた。
視線の先にはATM。
ATMの壁には『オレオレ詐欺』や『振り込め詐欺』と大きく書かれて注意喚起がなされていた。
「オレオレならまだ……ね?
私なんて紗良だよって孫本人じゃ防ぎようがないよね。」
暗い声。
まだまだ自分を責めている声。
なんて声をかければいのか分からない。
「不審に思った銀行員の方に声をかけられて、そこで発覚したんです。」
想像とは違う結末。
「え?じゃおばあちゃんにはお金を借りなかったってこと?」
「はい。」
「だってあんなに……。」
おばあちゃんに対してすごく申し訳なさそうで、あんなに泣きじゃくるほど……。
「その後におばあちゃんがくれるって。
アパートは契約更新をしない上に家具や家電まで売って馬鹿ですよね。
一文無しだから甘えるしかなかったんです。
………あの人に渡したお金は全部使われてて戻ってこなかったから。」
そうか。だからか。
だからあんなにもおばあちゃんに申し訳なく思ってるんだ。
「もちろん返したい気持ちはあって、でもそんな名目じゃ受け取ってくれないから、何かと理由をつけてお金を送ってるんです。」
お金が必要……おばあちゃんに送るから。
そういう理由もあったようだ。
「おばあちゃん。大切にしなよ。」
「……はい。」
俯く紗良の頭を2、3度、頭を撫でて「ほら。下ばっかり向いてると酔うよ?」とやんわりと指摘した。
紗良には前を向いて笑っていて欲しいかった。
「じゃ本当に香川先輩は紗良を苛めてたわけじゃなかったんだ。」
「ふふっ。そうですよ?
案外優しい方です。
私のお金がいる理由も知ってるのに、それは言いふらさないでいてくれて。」
「そうなんだ……。ごめん。
本当に余計なお世話だったんだね。」
「ううん。余計なお世話ではないですよ。
面倒な仕事の押し付けとか、ちょっと男の人と話しただけでいびりとか普通でしたから。
最低最悪な人ってわけでもないですが、良い人ってわけでも……。」
「フッ。紗良も案外言うんだね。」
「それは……だって。」
「責めてるわけじゃないよ。
俺も心の中で「最低だな。あんた」って罵ってた。」
「松田さんも王子様は王子様でも黒王子?」
「俺は白馬に乗った潔白王子様。」
「潔白?潔癖じゃなくて?」
俺のこと女ったらしって吹き込まれたことを言ってるんだけど、分かるわけないか。
「俺が潔癖だと思う?」
「ううん。標準ですよね?きっと。」
「ほら。また敬語に松田さんになってる。」