不器用王子の甘い誘惑
36.DVDを見よう
 松田さんが言ってくれたことも、留守電のメッセージも信じていいのか分からなくて、紗良は何日か前に瑞稀に相談していた。

「どう思う?」

「何?この胸やけしそうな甘々メッセージは。」

 私もそう思うけど、聞いただけで赤面する私と寒気がしてそうな瑞稀とは大きな隔たりがあると思う。

「また……騙されてないか心配で。」

「何言ってるの。
 話してた好きな人は紗良のことだったのなら、不誠実ってわけでもないし。
 麗華さんのことも私なら好感が持てるな。」

「え?どうして?」

「だって不特定多数の人に好かれることに興味がないから婚約者の噂を放ったらかしにしたんでしょ?
 悪い人ならそんな噂が立たないようにするよ。きっと。」

 そっか。そう言われるとそんな気もする。
 職場の人達も噂を聞いて色めき立つ空気がなくなった。

「で、どうするの?
 すごく素敵な人に好かれて。」

「分からないよ。現実味が無くて。」

「うーん。そうだね。
 どこが好きになったのかを詳しく聞けば実感が湧くんじゃない?」

 そうか。そうかもしれない。

 練習相手がどうして私なんだろうって疑問を持った時と同じ。
 練習相手の時はからかいやすいからかな?と思ったけど、今回はそんな理由のわけない。



 自分の気持ちを松田さんに伝えた。
 好きなんだって思ったから。

 ずっと、練習相手だから、松田さんには好きな子がいるからと見ないふりをしてきた気持ち。
 騙された時のもうあんな気持ちを味わいたくないというトラウマもあって臆病になっていた。

 毎日の留守電は半信半疑と言いつつも、いつも赤面して、なのにまた聞きたくなって聞いては赤面した。
 少しずつ少しずつ歩み寄ってくれた松田さんに心も解けていったんだと思う。


 DVDを見ようねとレンタルショップに足を向けているみたいな松田さんに質問する。

「あの……私のどの辺がいいんでしょうか。
 えっと聞き方が難しいな。」

 松田さんを見上げると目を丸くして、それから目を細めて微笑まれた。

「どこが好き?ってこと?
 質問が可愛くて……ちょっと待って。」

 何が?どこが?
 松田さん酔ってるんじゃないの?

 口元に手を当てる松田さんがハハハッと笑って顔を赤らめている。

「……その、それはまた後じゃダメ?
 今はDVDを選ばない?」

 レンタルショップに入った松田さんに手を繋がれている紗良も有無を言わさずに入ることになった。





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