不器用王子の甘い誘惑
39.近づく距離
 頬にそっと手を添えれられてドキドキする。

 気持ちを伝え合う前は冗談で「言わなきゃキスするよ」なんて言われたりしたのに、キスについては冗談でさえ言われなくなった。

 距離が近いことはあっても全然そんな素振りも……。

 それなのに今日は顔が近づいて……近づいて……近づいて………。

「痛っ!」

 離れていく松田さんの顔は悪戯っぽい笑みが浮かべられていた。

 鼻、鼻をかじられた!

「爽助って呼ばないから。」

 またからかわれた!

 松田さんは服装を正してから紗良の手を取って微笑んでエスコートする。

「お姫様。こちらへどうぞ。」

 夢見た通りの王子様が目の前にいて、手を引いてくれる。
 夢は見ないって思ってたのに……。

「着替えなきゃ。
 買い物も料理もこのままじゃ……。」

「本来なら給仕がいるものだけど、それは紗良に断られちゃったからさ。
 ジャケットは返してね。
 ドレス………すごく似合ってるからそのままで。」

 何から何までお姫様みたいで、椅子まで引いてくれた。
 戸惑いながら座ると松田さんがたくさんの料理を運んできた。

「……だから夕方から会おうって言ったんですね。」

 内緒で用意するなんてずるい。
 全て運び終えると松田さんも席についた。

「一緒に作るのも楽しみだったんだけどさ。
 驚かせたくてマスターのところで教えてもらいながら作ったんだよ。」

「え?松田さんが?」

 松田さんの手が伸びてきて口元に指を当てられた。
 触れられた唇がくすぐったいし恥ずかしい。

「爽助だよ。」

 囁くように言われ、赤くなりそうな顔で「はい。爽助さん」と微笑んだ。

 マスターの指導が良かったからだよと言う食事は美味しかった。
 2人ならとテーブルマナーも臆することなく挑戦してみる。

「お店でもナイフとフォークで食べれば良かったのに。
 綺麗な食べ方で目を奪われるよ。」

「松……爽助さんとお付き合いすることになって、勉強したんです。
 子どもの頃に滅茶苦茶な練習くらいしかしたことなくて。」

「そっか。ありがとう?」

「そうですよ。褒めて欲しいです。
 頑張ったねって。」

「紗良はいつも頑張ってるの知ってるよ。
 フフッ。ついてる。」

 口元を指で拭われて、その拭った指を……舐めちゃったよ!
 こっちは顔が熱くなるのに松田さんは平気そうで。

「こういうことお店ではできないから、ここで良かったかもね。」

 テーブルの下では脚を絡められて「もう!」と怒ると「ごめん」と肩を竦められた。

「だって可愛いから。」

 



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