不器用王子の甘い誘惑
「嘘。嘘。
 俺の方が年上で、それでも小2くらいだったから紗良は幼稚園の年長か年中でしょ?
 俺の方が覚えてて当然だよ。」

 それでも……。
 気づいてくれなくて、寂しかった。
 今はもう……いいんだ。

「約束………したよね?」

「うん……うん……………。」

 涙声で頷く紗良の頭を撫でる。

「泣くなよ。」

「だって…………。」

 ずっと紗良としたかった思い出話。
 やっと出来て俺は嬉しいよ。

「紗良がお母さんの病気が治っちゃった!って泣いてて。」

「うん。」

「よくなったのになんで泣くの?って聞いたんだ。」

「うん。」

「笑ったよ。継母に育ててもらわないとお姫様になれないんだもーんって余計に泣かれて。」

「うん。」

「それなのに、お母さんの病気が治らないってことはお母さん死んじゃうんだよ!って怒ったら、そんなのヤダ〜!ってまた泣いて。」

 その頃の俺の方が勇気があってかっこよかったよな。
 躊躇なんてどこにもなくて。
 今より全然、細くて女の子みたいって言われてたのに。

 俺と紗良の特別な儀式。
 これからは何度だってしよう。

 小指を紗良の前に出すと、遅れて出された小指。
 微かに震える小指をギュッと小指でつかんで上下に揺する。

「指切りげんまん針千本のーます。指切った。」

 抱きついてきた紗良の体に腕を回した。
 何度抱きしめても小さい体。

 あの頃は俺と紗良、ほとんど変わらない体型だったのに、今の俺はその時よりももっともっと……紗良を守っていけるだろうか。

「絶対に俺が王子様になって紗良を迎えに来るからって約束したよね?
 俺が王子様になって紗良をお姫様にしてあげるって。
 だから約束を守りに来たんだよ。」

 うん。うん。と、頷く紗良の顔を上げさせる。
 涙に濡れる頬をそっと拭って、昔みたいに指切りした後の約束のキスを……。

 優しく触れる唇は柔らかくて甘い。

「2度目のキスはイチゴ味かな?」

 俺の胸に顔をうずめる紗良は首を振る。

「俺はすごく甘かったよ。」

 頭にそっとキスをした。




< 82 / 89 >

この作品をシェア

pagetop