不器用王子の甘い誘惑
 楽しそうに準備をする紗良と麗華をずいぶんと離れたところからぼんやり見つめた。
 加わる気になれなくて、声が微かに聞こえるくらいの位置に離れて座る。

 亘は紗良に余計なことを言ったくせに俺の肩にもたれかかって俺にまで余計なことを聞いてくる。

「なぁ。いい加減、したのか?
 昨日、泊めたんだろ?」

「うるさい。」

「は?まさかだよな?」

「うるさい。そのまさかだよ。」

 信じられないという声の亘が鬱陶しい。

「大事にし過ぎだろ。」

「うるさい。大事なんだよ。」

「大事にするって言っても他にやり方があるだろ?」

 返事もする気になれなくて黙っていると俺の元を離れて楽しそうに笑っている麗華と紗良の方へ加わっていった。

 大事だから仕方ないだろ。
 俺が乱暴に触ったりしたら壊れちゃいそうなんだよ。

 ついていた頬杖を崩して頭を抱えた。

 寝たふりして、くっつかれて、俺は眠れないのに紗良は平気で寝られて。
 俺だって馬鹿だろって思うけど……。

 人の気配がして紗良が近くにやってきたみたいだ。

 何度か頭を撫でられて、こんな時に子ども扱い……と余計に落ち込んでいると俺を覗き込んで…………。

 は?

 口元を押さえて体を起こすと顔が急激に熱くなっていくのが分かる。

「紗良ちゃーん。爽助、起きた?
 2人でこっち来いよー!」

 脳天気な亘の声が聞こえて紗良も「はーい」と返事をしている。

 その顔は真っ赤で。

 俺は堪らずに手を引っ張って、亘達から見えないように唇を重ねた。
 愛おしいキスの後に、俺のお姫様には敵わないなとおでこをコツンとぶつけて笑った。





< 86 / 89 >

この作品をシェア

pagetop