消極的に一直線。【完】
「颯見くんのことが……好き」
言い終わった瞬間、急に恥ずかしさがこみ上げてきて、倖子ちゃんの顔を見れなくなった。
テーブルに置かれたマイクに視線を移す。
顔に熱がこもっていくような感覚がする。
無言の空気に耐えられなくなって、えっと、と言葉にならない声を出した。
ふ、と倖子ちゃんの息が漏れる音。
「よかった。気づいたんだ」
その声が、いつもよりも優しいような気がして、顔をそっと上げた。
「あたしは前から確信してたよ」
そう言った倖子ちゃんは、少しだけ視線をおとして、小さく息を吐いた。
「あたしは、雫の恋が上手くいってほしい」
ため息のように呟かれた、その言葉の裏。
それを感じて、また、胸にチクリと針が刺さる。
颯見くんの好きな人は、たぶん鈴葉ちゃんだから。
「倖子ちゃん、」
考えるよりも先に、声が出ていた。
「私、鈴葉ちゃんと颯見くんが一緒にいると、すごく、苦しくなる」
倖子ちゃんは、視線をおとしたまま、私の言葉を聞いている。
「私は、鈴葉ちゃんのことも、大好きなのに」
得体のしれない、何かとても嫌なものが、体の奥底から渦巻くようにこみ上げて。
あれは、いったい何だったのか、もう思い出したくもない。
鈴葉ちゃんと、颯見くん。
嫌だ、と考えることを心が遮断する。
「今日、見ていて、思った」
珍しく、滞りなく口から出てくる、言葉たち。
「やっぱり、颯見くんは、鈴葉ちゃんのことが……好き」
どうして、今は、こんなにスラスラと言葉が出ていくんだろう。
不思議なくらいに、綺麗に流れていく。
倖子ちゃんは、下げていた視線をゆっくり上げて、揺れる瞳で私を見た。
「雫、」
それが倖子ちゃんのものなのか疑うくらいに、消え入りそうな声。