消極的に一直線。【完】
「おい、寺泉」



目から溢れそうになる瞬間、響いた颯見くんの強めの声で、空気が変わった。



「それ以上続けたら、許さねぇ」



いつもより低い声。



ドクンと、また、心臓が嫌な音をたてた。



颯見くんが怒ってる。鈴葉ちゃんを庇って怒ってる。


私のせいで鈴葉ちゃんにあんなことを言った倖子ちゃんに、怒ってる。



その怒りは私に向けられたも同然で。羞恥心でカッと体の奥が熱くなった。



鈴葉ちゃんの顔も、倖子ちゃんの顔も、見れない。


颯見くんの顔も、どんな表情をしてるのかなんて、こわくて確認できない。



じゃり、と私の斜め前の倖子ちゃんが動いた。



「颯見こそ、中雅鈴葉のこと庇って――」

「こわがってんじゃん」



倖子ちゃんの言葉に覆いかぶさるようにして、颯見くんの声が響く。



ドクンドクンと、嫌なものが全身を駆け巡っていく。



鈴葉ちゃん、やっぱり、こわがってたんだ。


いつも明るい鈴葉ちゃんでも、あんなふうに言われたら、そうなってしまうのは当たり前で。


私の、せいだ。



震える手で、ぎゅっと、セーターの裾を握る。



颯見くんが、小さく息を吐いた音が、聞こえた。









「哀咲が、こわがってる」







え、と思わず顔を颯見くんに向けた。



倖子ちゃんに向けられていた颯見くんの目が、私の方に向けられて、優しい色を浮かべた。



「大丈夫?」



胸の奥が、トクンと、音をたてて、身体の震えが引いていく。






私は、自分勝手すぎる。


倖子ちゃんにあんな言葉を言わせたのは、私で。


鈴葉ちゃんは、そのせいですごく嫌な思いをしてるはずで。



それを聞きながら、私はただ何も言えずに、震えていただけ。



それなのに、颯見くんが私に目を向けてくれた途端に、自分だけ、こんな、心臓を鳴らせて。



「あ、あの、」



鼓動の音を消すように、声を出した。



瞬間に、みんなの視線が自分に向けられたのを、感じる。



言うべきことはたくさんあるはずなのに、何を言うかを全く考えていなくて、必死に思考を巡らせた。



まずは、何を言うべきかな。

謝るべきかな。
ううん、たぶん、違う。



「鈴葉ちゃん、あの、大丈夫?」



言ってから、少し言うべきことを間違えたかな、と不安になった。



だけど鈴葉ちゃんは、ふわりと笑って、大丈夫だよ、と答えてくれた。
< 121 / 516 >

この作品をシェア

pagetop