消極的に一直線。【完】
甘酒をもらうための列は、そこそこ人が並んでいたけれど、進むのが速くて、案外すぐにもらうことができた。



甘酒の入った紙コップからじんわりと熱が伝わって、手が温かい。



白くたつ湯気からは、少しクセのある匂いが鼻を通った。



甘酒って、言葉では何度も聞いたことがあったけれど、飲むのは初めてで。


その独特の匂いから、飲めるかなぁと少し不安になる。



「甘酒飲むと、大晦日って感じがする!」



鈴葉ちゃんは、紙コップに少し口を付けて、言った。



「鈴葉はほんと甘酒好きだよな」



朝羽くんが、ははっと笑いながら、同じように甘酒を飲んでいる。



颯見くんも、倖子ちゃんも、難なく甘酒を飲んでいる。



それを確認して、私もゆっくりと紙コップに口を近づけていく。



寸前まで近づけると、湯気が直接鼻の奥に入り込んできた。



冷えた体にはそれが心地よく感じて、独特な匂いはもうそんなに気にならない。



飲めそうだな。


そう思って、コップを傾け勢いよく甘酒を口に流し込んだ。






「あっ……!」



瞬間的に、口から紙コップを遠ざけた。



思ったよりも熱かった甘酒に、舌と喉が刺さるように痛む。



「雫ちゃん、大丈夫?」

「雫、熱いから気を付けないと」



鈴葉ちゃんと倖子ちゃんが、顔を覗かせるようにして、私を見た。



「うん、大丈夫」



そう答えたけれど、唇と舌が、麻痺したようにぴりぴり痛い。



口元を冷たい指先で触ると気持ち良くて、唇を指で挟んでいると。


突然、目の前に颯見くんの整った顔が、ドアップで映った。



「哀咲、火傷してない?」



優しい目。優しい声。



心臓が大きく脈打って、一気に顔に熱がこもった気がした。



ハッと視線を下に向けて、唇から指を離す。



それでも、急ピッチで鳴り続ける鼓動はやまない。



好き。
颯見くんが、好き。



言葉で意識してしまった、“好き”。



いつも以上に、緊張する。



どんな顔をして颯見くんを見ればいいかわからなくて、視線が上げられない。

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