消極的に一直線。【完】
顔を俯けて、肩にかかったコートを手にとると、爽やかな匂いが、鼻をかすめる。



「あ、ありがとう。気持ちだけ」



そう言って、俯いたまま、コートを颯見くんに差し出した。



颯見くんがコートを受け取ってくれるのを待つけれど、なかなか受け取ってくれない。



「あ、の、」



少し不安になって、顔を上げると、颯見くんはくしゃっと笑った。



「やっと、こっち向いてくれた」



ポッと、胸の奥に熱いものが流れて音をたてた。



心臓が痛いほど、脈打って、主張する。



「それは使ってよ。俺が、使ってほしいんだ」



身体に、熱が回っていく。



颯見くんは、私が遠慮しないように、そう言ってくれてるだけなのに、なんだかすごく、気持ちが高揚してしまう。



「あ、ありがとう」



颯見くんは、そういう人で、だから、みんなに人気なんだ。

それってすごく、憧れることなのに。



それなのに、私は、それが私に対してだけだったらいいなぁ、なんて、とんでもなく厚かましいことを思ってしまった。



鳴り止まない鼓動の音を聞きながら、コートの袖に、腕を通す。



鼻をかすめる爽やかな匂いが、さらに鼓動を速くさせる。



ゴーン、とどこかのお寺の鐘が鳴った後、急に神社の表の方が、賑やかさを増した。



「あ、カウントダウンが始まる」



颯見くんが、呟くように言った。



よく耳を澄ませると、十、九、八、と声を揃えてカウントを数えるのが聞こえてくる。
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