消極的に一直線。【完】
「送る」



目の前の背の高い男子が、低い声で呟いて、その視線を私に向けた。



緊張が走って、思わず肩に力が入る。



「そうね。こいつの目が覚める前に、退散しないと」



ボブの女の子が、そう言って、「行こ」と私の手を引いた。



よくわからないまま、引かれるままに足を進める。



繋がれた自分の手が、汗ばんでいるような気がして、不快に思われていないかなって不安になる。



掴まれたままのその手を、握り返した方がいいのか、それとも力は入れない方がいいのか、そんなことばかり意識していた。



ブォーンと道路を走る車の音が耳に届いて、大通りまで出たことに気づいた。



ボブの女の子が立ち止まった。それに合わせて、私も足を止めると、スッと手が離されて、冷たい空気が手のひらに当たる。



「ねぇ、テーブルゲーム部に入ってくれない?」



ボブの女の子が、ひょこっと顔をのぞかせて、突然そんなことを言った。



思考が追いつかなくて、ただただ彼女を見つめ返す。



そんな私の反応を見て、彼女は、少し不安な色を浮かばせた。



「部活……入ってないよね?」



訊かれて、戸惑いながら頷くと、今度は嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「なら決定ね! 放課後、一年の教材室で集まってるから、明日から絶対来てね!」



承諾したつもりはなかったのに、どうしてなのかいつの間にか事が進んでしまっている。



「これで安心!」



だけど、嬉しそうに笑った彼女に、いまさら、入りませんなんて言えない。


ただ、どうしようかと不安だけが渦巻いた。



部活に入って、私は部員の人たちと、仲良くやっていけるのかな。


もし、上手くいかずに、一人になってしまったら。



一人なんて、前までもそうだったのに、やっぱりそれは、すごく、不安。



「今日は、家まで送るからね」



成り行きのまま彼女たちに家まで送られて、その間じゅう、彼女はしゃべり続けていて。


都合よく、私が喋らないのは怖い思いをしたせいだと思ってくれたようだった。



いろんなことを話してくれていたのに、部活に入ることになってしまった不安ばかり頭にめぐらせていて。


家に着いて頭に残っていたのは、彼女たちの自己紹介だけだった。
< 143 / 516 >

この作品をシェア

pagetop