消極的に一直線。【完】
翌日の朝。

黒いスーツの男にナイフで刺された夢を見て、ハッと目が覚めた。



視界に映る、自分の部屋の天井の模様。

時を刻むように、鼓動の音が規則正しく耳に響く。



刺されたのは夢だということを、頭が認識していくのに比例して、昨日あった出来事がゆっくり思い出された。



昨日の放課後は、不思議なことばかり起こった。


今でも、よく理解できていない。



全く知らない男の人に殺されかけた。

ボブの子達がそれを助けてくれた。

そしてなぜか、テーブルゲーム部に入ることになった。



そういえば、私は、彼女たちにお礼も言えてない。


今日、部活で会ったときに、ちゃんと言わないと。



そう思うと、緊張が渦巻いたけれど、それを無理やり奥底に押し込んだ。



準備を済ませて、一階におりると、いつもの和と洋が入り混じった朝ごはんが、テーブルに並んでいる。



椅子に座って、それを食べていると、昨日のことはなんだか現実じゃなかったような気分になった。



薄気味悪い古びた公園。
男の人に向けられた鋭利な刃物。



あれも、全部、夢だったのかもしれない。

そうであってほしい、なんて思う。



玄関で、ローファーを履いて、行ってきまーす、とドアを開けた瞬間、それは全てが現実だったのだと、確実に思い知らされた。




「おはよう、哀咲さん!」



家の前に並ぶ四つの影に、思わず身体を硬直させた。



「勝手だけど、今日から登下校もよろしくね」



ふわふわのボブを揺らしながら、彼女――吉澄歌奈(よしずみうたな)さんが、私の隣に並んだ。



「安全のためだから」



そう言って、柔らかく笑顔を向ける。



その笑顔を見て、嬉しいような、申し訳ないような気持ちになった。



私のことを心配して、わざわざ家まで来てくれたんだ。


なんて、良い人たちなんだろう。



「おい、早く行こうぜー」



大柄な身体を動かして、西盛重太(にしもりしげた)くんが、歩き出した。



それに続くように、痩せ型の洲刈英磨(すがりひでまろ)くんも、足を進める。



その隣で、背の高い真内銀十郎(まないぎんじゅうろう)くんが、無言のまま私に視線を向けた。



その切れ長の目は、綺麗だけど、どこか優しい色が浮かんでいて、やっぱりなんだか不思議だ。
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