消極的に一直線。【完】
「えーっと、昨日も自己紹介したけど、もう一度、改めて」



そう言いながら、西盛くんのポテトチップスの袋をサッと取り上げる。



あ、と声を漏らした西盛くんにも構わず、吉澄さんは続けた。



「私は、吉澄歌奈。一年十組だよ。好きなことは、歌うこと!」


「あとイケメン好きな」



西盛くんが少しふて腐れた声で繋げた。



「ちょっと重太! 変なこと言わないで」


「ほんとのことだろ」



西盛くんの声が少し不機嫌に聞こえるのは、ポテトチップスを取られたからなのかな。


なんとなく、それだけではないような何かを感じたけれど、その正体はわからなかった。



「あ、俺は、西盛重太。一年五組。好きなものはポテチ」


「重太は食いしん坊なの」



さっきの仕返しとばかりに、吉澄さんが、すました顔で付け足した。



「い、いいだろ。腹が減っては戦はできねぇ」


「食べても食べてもお腹すいてるんだから、いつまでも戦できないじゃない」



そのやり取りに、なんだか思わず笑ってしまいそうになった。



「哀咲さん」



呼ばれて視線を二人から外すと、洲刈くんがトランプを目の前に広げた。



「好きなカードを一枚引いてください」



何だろう、手品かな。



戸惑いながら、広げられた真ん中あたりの一枚に手を延ばした。



おそるおそる、それを抜き取ると、洲刈くんは、にやり、と笑った。



「哀咲さん、そのカードのマークと数字を覚えていてください。あ、僕に見えないようにね」



言われて、引いたカードを見ると、スペードの七だった。



「じゃあ、そのカードを裏返しのままこの中に戻して」



なんだかわからないまま、洲刈くんの手の中で広げられたトランプに、それを戻す。



「んじゃ、どこにあるかわからないように、トランプをくります」



洲刈くんは、手際よく、トランプをくっていく。



何度も、何度も、くって、もう私の引いたトランプは全くどれかわからなくなってしまった。



「このくらいでいいかな。じゃあ、僕はこの中から、哀咲さんが引いたトランプを当てます」


「え」



思わず出てしまった声に、洲刈くんは満足そうな笑みを浮かべながら、手の中のトランプを表に向けて、じっと見つめた。
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