消極的に一直線。【完】
「あ、そうだ。哀咲さん、こっち来て」



吉澄さんが、奪い取ったポテトチップスの袋を西盛くんの手に戻して、私の手を引いた。



温かい手。

なんだか、握られていることに緊張する。



引かれるままに足を進めて、窓際までたどり着いた。



「またイケメン探しかー?」



西盛くんの不機嫌そうな声が飛んできたけれど、吉澄さんはそんなの無視で嬉しそうに窓の外を見つめている。



「ほら見て。ここからサッカー部と野球部の練習がすごくよく見えるの」



握られていた手が離れて、そのまま窓の外を指さす吉澄さん。



「サッカー部と野球部ってかっこいい人多いよね!」



サッカー部。そういえば、颯見くんは、サッカー部で。


私は思わず、その指差す先に視線を向けた。



広い、グラウンド。

たくさんの人がうごめく中で。見つけるのは、一瞬だった。



ふんわりした黒髪。真剣な顔。



心臓が、音をたてて高鳴る。



ちょうど今、ボールが回ってきて、敵を避けて上手くパスを回した。



誰かがゴールを決めて、嬉しそうにハイタッチ。



汗をぬぐう姿。

サッカー部のユニフォーム。



全て、初めて見る、颯見くん。



「哀咲さん……?」



隣からの、不思議そうな吉澄さんの視線に気が付いて、ハッと目を離した。
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