消極的に一直線。【完】
ああ、やっぱり、そうなんだ。
案外その言葉は、すんなりと胸に入ってきて、反復されている。
知ってた。
なんとなく二人を見ていれば、そんなことは気付いていた。
お互いがお互いを見る目は、他とは違うから。
「哀咲さんは僕と似てるよ」
朝羽くんの言葉は、まだ続く。
「僕は鈴葉が好きだけど、嵐も大切な幼馴染み」
冷たい風が、頬を撫でて去って行く。
「哀咲さんも、嵐が好きだけど、鈴葉も大切な友達。だろ?」
少しだけふわっと笑った朝羽くんに、私はゆっくりと頷いた。
その言葉が、私のなかにある、ごちゃごちゃしたものを全て言い当ててくれている。
私は、颯見くんが好き。
だけど、颯見くんは鈴葉ちゃんが好きで、鈴葉ちゃんも颯見くんが好きで。
そして、私にとって、鈴葉ちゃんは大切な大切な友達。
「だから僕たちは、」
朝羽くんが続けようとしたのを、遮ってしまった。
ほぼ反射的にさし出した、『春風の紅茶』の缶。
きっと私は、この次に言われる言葉を察して、それを聞きたくなかったんだ。
聞いてしまったら、本当にそうしなければいけないんだって、自覚するのが嫌だった。
そうするべきなのに、そうしたくない。
鈴葉ちゃんのこと、大好きなのに。
大好きな人達が幸せになることを、望まないはずがないのに。
「これ、くれるの?」
目を丸く見開いた朝羽くんが、そっと缶を手に取った。
本当は、厚かましくも颯見くんに渡そうとした『春風の紅茶』。
ゆっくり頷いたら、さらに罪悪感が押し寄せて来て、体を方向転換して、グラウンドに走った。
きっと朝羽くんは、二人の邪魔はしないでおこうって、この恋は諦めようって、そう言いたかったんだろうな。
朝羽くんだって、ものすごく辛いはずなのに、私だけ、逃げてしまった。
座っていた階段の方へ戻ると、先に倖子ちゃんが戻って来ていた。
颯見くんに会えたか訊かれて、首を横に振った私に、倖子ちゃんはただ「そっか」と頭を撫でてくれた。